2014年11月23日

あらしのあと6

頑張れば自転車で行ける距離に浅間温泉がある。
なんとまあ。

稽古休みの午後、ホテルのチャリでゆるい上り坂をひた走った。

世間一般的には温泉にどのくらいの時間浸かるのか知らないけど
もともと僕はカラスの行水タイプなのでそうそう長く入っていられない。

でもせっかく行ったんだから、と露天風呂から出てベンチで一息ついていると
インド系と思しき初老の男性が同じく風呂からあがって僕の横に座ってきた。

「これは雨水を沸かしているのか」

とトンデモ質問をしてきたので(もちろん英語で)

いやいや、日本は火山列島だからあっついあっついお湯が地の底深くから湧いてくるんだよ。
と答えました。(もちろんなんとか英語で)

男性はイングランドはレスターという街から奥さんと一緒に日本に来たそうで、
広島、大阪、金沢と旅行して翌日東京に行ってからイギリスに帰るということだった。
60代後半の歯医者さんで自分はもうリタイアしてクリニックは息子に任せているらしい。

日本は友人から聞いて興味を持ち訪れたそうだが、
ちょっと物価は高いけれど、どこへ行っても食べ物はおいしくみんな親切だと言っていた。
僕も東京から松本に初めて来てここでシェイクスピアの芝居の稽古をしていることを伝え、
わからないなりにイギリスの経済の話やスコットランドの独立の話なんかに耳を傾けた。

もちろん素っ裸で。

身体も冷えてきたころ、彼はもう一度屋内の風呂に、僕は露天風呂に入ってそのまま帰った。

人と会話をすることのなんと素晴らしいことか。
松本の温泉の露天風呂でイギリスの人と素っ裸で会話に興じる。

ほんの10分くらいの会話だったけど僕の心はレスターに飛んでいた。

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翌日稽古場で話すと
「それを面白いと感じる直樹君が面白いんだよ」
と串田さんに言われた。

つづく
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2014年11月22日

あらしのあと5

舞台の現場での再会。
これほど嬉しいものはない。

それが今回は木内さんと片岡さんだったのだから
そりゃもう、やってて良かった、なのである。

串田さんと初めて会ったとき、
なんとか共通の話題を探そうと自由劇場だった片岡さんの名前を出し、
「え、青空美人だったの?」ということで木内さんの話題になり、
「木内君にも声をかけてるんだ」という話になり
十数年ぶりに同じ時間を過ごせたわけである。
しかも3人一緒に。

時が経っても木内さんは木内さんだし、片岡さんは片岡さんだった。
はて、僕はどうだったろう。

青空に参加したときから「役者を続けたい」と思っていたし
そういう僕の言葉を木内さんもずっと覚えていた。
多くの人には思い出になってしまった過去がまたこうして交わり、
今だから話せる話や今でも忘れられない話やどうでもいい話ができるのは
続けてきた自分と支えてくれた人や環境があったからだ。

やってきてよかった。
自己満足かもしれないけれど、心からそう思う。

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つづく
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2014年11月21日

あらしのあと4

稽古期間中、来年の「ユビュ王」のワークショップが重なった。

ただでさえわけのわからんテンペストと格闘しているのに
さらにわけのわからん台本に向き合わねばならんのである。

とはいえ、久々のエリコとの稽古。
いやでも張りきらざるを得ない。
いや、張りきらされてしまう。

そもそも串田さんが「帰郷」を観に来てくれたときに
エリコと会って話したのが縁で松本に呼ばれたらしいので
そう考えると全部つながっているわけなのだ。
こうして時間をかけて準備させてもらえるのはありがたいことだ。

ゲームやスポーツで身体を使って反射神経を呼び覚ましていくエリコの稽古。
串田さんのゆったりとしたテンペストの時間とは正に対照的。

時間をかけてじっくり作品に取り組み、
それを育てていくにはそれなりの環境が必要。
東京にはチャンスも多いけどゆっくり振り返る余裕がない。

完璧に仕上げてキレイにラッピングしないと許されないし
始まったら演出家は次の現場へ向かうこともしばしば。
再演があってもそれは評判がよくお客さんが入ったからで、
作品を育てたい、という趣旨ではないことが多い。

なんでもそうかもしれないけど、芝居も完成などしない、と思う。
小野寺さんの「カルメン」もしかり、現在進行形を見てもらうことしかできない。

「K.テンペスト」も終わっていないし、「ユビュ王」はもう始まっているのだ。

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つづく
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2014年11月18日

あらしのあと3

「即興」が苦手。

古典を上演する際に立ちはだかるのが大昔に翻訳された難しい言葉。
串田さんも「俳優が一生懸命覚えて喋っているだけで観客には伝わってこない」ことに
違和感を感じると言っていた。

台本にこう書いてあるから。
そう翻訳されているから。
この話はなんなんだろうか。
なんでこのシーンはあるんだろうか。
これってなんのこと言ってるの?そもそも面白いの?

「テンペスト」を解体して咀嚼して体内に取り込むために
何回も即興を繰り返した。

即興というには打ち合わせの時間が長く
ストーリーから抽出したエッセンスやキーワード、気になった点をグループで話し合い、
とにかくみんなの前で発表した。

今思えばこうしてシーンを立ち上げていったわけだけど
それはただ発表して「面白かった」「つまらなかった」と批評するものではなく
見ている人がそこから何を感じたか、ここからどこにつながっていくのか
発表を見ている人たちにも大きな役割がある。
そう串田さんは話していた。

やらせっぱなしの現場もあるけれど
でてきたものをどう編集していくか。
そこなんだな。

演じる責任、見る責任。

どんな立場でもそのシーンに積極的に食い込んでいかねばならない。
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でも即興は苦手だ。

つづく
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2014年11月05日

あらしのあと2

大きいプロダクションになればなるほど発言するのが怖くなる。

そもそも話が上手なほうではないし
国語の読解力も「もう少しがんばりましょう」な僕は
とんでもなくトンチンカンな発言をして落ち込むことも少なくない。

多くの時間を「雑談」に費やした今回の稽古では
自分が思ったことをいつでも発言できる空気が出来ていた。

今思い返せば「あの話はなんだったんだろう」という時間もあった。
飼い猫の話、「2」が好きという話、あくびの考察、お墓参りの話、カツアゲされた話、
子供のころの記憶、遭難しかけた話、隣家との塀の話、溺れかけた話、癖の話・・・

クローズアップされ本番で日の目を見た話題もあったけど
そのほとんどは儚くも松本の澄んだ空気の中に溶けて行ってしまった。

でも、誰かの体験談が誰かの人生に重なり、少しずつ確実に広がっていき
いつの間にかそれが自分の経験と相まって舞台上に空気となって漂っていたに違いない。

人間がひとりで経験できることは限られているけど
ひとの話を聞くことで無限に広がっていく。

僕の人生の大半も今まで、そしてこれから関わる誰かの「話」でできているのかもしれない。

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つづく
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2014年11月04日

あらしのあと

「再演、しよう!」

千秋楽直後の乾杯時、まつもと市民芸術館の主ホールステージに
串田さんの声が響いて2014年の「K.テンペスト」は終わった。

「終わった」というよりは「過ぎ去った」というほうが
この物語には似合っているかもしれない。

串田さんと初めて会ったのは春先。
喫茶店で1時間ほどおしゃべりをして

「じゃ、一緒にやろう」

と言われたまま顔合わせまで会うことはなく
本当にやるんだろうか、と思ったりもした。

9月の稽古に入ってからも太極拳をしたり歌ったり話をしたり。
ここでも、本当にやるんだろうか、と思ったり。

しかしある日、「芝居は役者なんだ!」と串田さんの語気が強くなった。
台本は台本、打ち合わせは打ち合わせ、
でもゲートでウズウズしている競争馬みたいじゃないと何も生まれない、
よーいどんで走り出したら他のみんなを出し抜くくらいじゃないとダメなんだと。

配役も決まっていて台本通りやるならこんな稽古はしないと。

やるのは自分なのだ。

好きでこの仕事をやっているのに
いつの間にか決めてもらうことに慣れている自分がいた。

「こんな環境で芝居がしたい!」と夢見ていた場所にいるのに
自由にやっていいよ、と言われたら受け身になっていたのだ。


僕の肩を叩いて「あと3週間あったらなあ」と嬉しそうにつぶやく串田さん。

あらしは過ぎ去った。
けれど再びやってくるに違いない。

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つづく
posted by Naoki Saitoh at 20:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2014年11月03日

次回

ありがとうございました!

K.テンペスト

串田和美・最新作!
シェイクスピアのロマンス劇の傑作「テンペスト」が、全く新しい串田版として生まれる。
2014年秋、まつもと市民芸術館に新たな嵐が巻き起こる!

作 : W.シェイクスピア
翻訳: 松岡和子
演出+潤色+美術: 串田和美
音楽監督: 片岡正二郎

出演:
串田和美 高岡奏輔 門脇麦 大森博史 真那胡敬二
斉藤直樹 藤尾勘太郎 坂本慶介
近藤隼 佐藤卓 細川貴司 ほか


《公演日程》
10月29日(水) 19:00開演
10月30日(木) 19:00開演
10月31日(金) 19:00開演
11月01日(土) 13:00開演
11月02日(日) 13:00開演
11月03日(月) 13:00開演
(各回30分前開場)

《会場》
まつもと市民芸術館・特設会場

《チケット料金》
一般: 5,400円
U-25: 3,000円(要年齢確認証提示)
[整理番号付自由席・税込]

《プレイガイド》
まつもと市民芸術館チケットセンター(10:00〜18:00)
 [電話]0263-33-2200
 [窓口]チケットカウンター
 [H P] http://www.mpac.jp※ 要事前会員登録

《問合せ》
まつもと市民芸術館 0263-33-3800

《HP》
まつもと市民芸術館HP
posted by Naoki Saitoh at 19:50| Comment(0) | TrackBack(0) | スケジュール