劇場入りしてから美術&衣装の大島さんから聞かれた。
母親が和裁洋裁が得意なので、
子供のころ気まぐれで教えてもらったことを思い出した。
「できると思いますよ」
串田さんとの打ち合わせで船乗りが暇な時間編み物をしていた、なんて話題が出てきたらしい。
客入れ時間から俳優は自由に会場に出入りすることになっていたので
それぞれお客さんと会話したり、本を読んだり、忘れ物を取りに楽屋に帰ったり。
で、それに交ざって編み物をすることに。
お客さんを盛り上げるトーク力に不安な僕にとってはありがたい。
演出部の目黒さんに一番簡単な編み方を教えてもらいひたすら続きを編む。
たまに絡んできた共演者に相槌を打ちながらひたすら編む。
串田さんは最初から現実的にものを考えるのがきらいなようだ。
できない、と言ってしまったらできるわけがない。
歌や楽器、ダンス、太極拳からサーカスまで
「こうだったら楽しい」という想像力に限界を決めない。
「思うだけなら自由自在」を地で行くような人。
自由劇場の先輩方はみんな楽器が堪能だ。
芝居のために形から入ったらしいが、練習していくうちに
「どうやったらそんなカッコよく演奏できるのか」
とミュージシャンから聞かれるほどになったそうだ。
自分が選べるものは自分が知っているもの。
そのキャラクターがどんな音楽を聞いているのかどれだけ考えても
自分の知っている範囲内でしか選択することができない。
知らないものは知りようがないのだ。
でも人と話したり、探し続けることでその選択肢は無限に広がる。
ムチャぶりに応えたり、どうやったらいいか考えることで出来ることが増える。
これは芝居に限らないかもしれないけど。

ま、言っても編み物ですからね、
そんなに大げさなことじゃないか。
つづく