2006年10月11日

木内宏昌氏によるさいとう

木内宏昌氏プロフィール

1964年生まれ。84年、上智大学在学中、劇団「あれが噂の電撃隊!」で演劇活動をスタート。脚本、演出家となる。87年、銀座みゆき館劇場主催第4回大学演劇フェスティバルにおいて、最優秀作品賞、最優秀脚本賞。卒業後、89年に「青空美人」を旗揚げ。主宰となる。脚本、演出家として、「青空美人」の全作品を手掛ける。
年間2〜3公演のペースで新作を上演。都市生活者の深層を見つめながら、ときに冷徹に、ときにファンタジーへと昇華した作品となっている。しばしば、「現代につながる通路をもった舞台」「大人のための童話」「他では味わえない品と質の舞台」などと評されることがある。外部団体やテレビドラマへも作品、プロットを提供。小学館刊「せりふの時代/2000年夏号」において、次代を担う40人の若手劇作家とされる。現在、CMプランナー、コピーライターとしても活動中。

●近年の主な作品

1996年 『BLOOD』(新宿スペース・ゼロ)
1997年 『ゲルニカ』(青山円形劇場)
『素晴らしき、ネジ』(青山円形劇場)
1998年 『ハードボイルド・ダイヤモンド』(スペース・エッジ)
『アトム!〜stand in red boots!』(下北沢ザ・スズナリ)
1999年 『月の歩きかた/2部作』(スペース・エッジ)
『MOTHER HOUSE』(下北沢ザ・スズナリ)
2000年 『S〜記憶のけもの』(青山円形劇場/遊機械スペシャル公演/萩原聖人主演)
『Smile!』(下北沢ザ・スズナリ)
2001年 『嵐が丘の眠らない子供』(下北沢ザ・スズナリ)




■タケゾーが初めて青空美人の舞台に出演したのは、今から5年くらい前になります。

 タケゾーというのは、青空美人でもっとも多く使われている斎藤直樹の呼び名です。ひと昔前のマンガに登場したキャラクターがその由来だそうで。学生時代の仲間がつけたのだと聞いています。そう言えば、僕はタケゾーと同じ大学を卒業していますが、学生時代の彼をよく知りません。直接会ったときにはすでにダンサーとして完成しているように思えましたし、華やかな経歴もありました。にもかかわらず、青空美人のような小劇団の舞台に立とうとするのはなぜだったか。そのときはまだ、タケゾーの口から確かな言葉は聞こえて来なかったように記憶しています。もしかするとすでに腹をくくっていたかもしれませんが、僕は察していませんでした。

 ある初夏の稽古場。タケゾーはいつものように鳥の唐揚げ弁当を食べていました。稽古場にはタケゾー以外にはまだ誰も到着しておらず、唐揚げの香りに包まれながら、僕からこんな質問をしてみました。「もっと歳をとったときに自分がやっていたいのは、ダンサー?それとも役者?」するとタケゾーがすぱっと応えたのは、「役者ですね」という短い返事でした。そこにはいろいろな意味や思いが含まれていたことでしょう。僕はその返事が予想外に素早く返って来た瞬間から、そう、まさに今の今でも、あのやりとりをタケゾーと自分の関係の、「目印」としています。

 タケゾーは稽古場でも人当たりがやわらかく、話していても穏やかで、他人を安心させる周波を放っています。けれども油断はなりません。タケゾーはいつも明晰に人を見ています。間違ったことや、いい加減なことを許さない厳しさを持った男です。いつからかタケゾーをそんなふうに感じるようになりました。演出家としてタケゾーの芝居を見るのが僕の役目なのに、逆にタケゾーの目を気にしている自分に気がつくことさえあります。舞台役者として腹を括っている男に対し、自分は果して誠実な仕事ができているだろうか、曖昧な演出をしてはいないだろうかと、こちらをクソ真面目にさせる男なのです。

 あの初夏の稽古中、タケゾーは来る日も来る日も唐揚げ弁当を食べていました。あまりにもしつこく唐揚げ弁当を食べているので、あるとき、僕も同じ唐揚げ弁当を買ってみることにしました。なるほど、そこには弁当として満足のいく味とボリューム、ごはんとおかずのバランスの良さ、シンプルゆえにごまかしのきかない仕事がありました。そんなことを必要以上に感心しながら、稽古場の外にある駐車場の脇でこっそりと弁当を食べてみると、タケゾーの本質に少し近づけたような気がしたのを覚えています。

 つい先日、タケゾーが僕のところに遊びに来てくれるまで、プライベートで会ったことは一度もありませんでした。思えば、学校の後輩という感覚もまったく持たずにいました。舞台の仕事をしている仲間としてつきあいがあるだけのタケゾー。彼は学生時代からの仲間や友人たちの力に頼って舞台を作って来た僕にとって、なれ合いムードができることにタンマをかけ、仕事に対して敬意をわかせてくれる存在です。

 じつはこれを書く前、ほかにもタケゾーについて語るべきことをいろいろ思い浮かべていました。約束をちゃんと守る男だとか、人の悪口を言わない男だとか、あいさつがきちんとできる男だとか、褒めたい言葉がいくらでも思いつきました。どれも人としてあたりまえのことですが、それでも敢えて言おうと思います。人間どうしの関係において大切なごくあたりまえのことが、なかなかままならないのが大人の日常です。小賢しい計算や、意地や、プライドや、卑屈さが邪魔をして、自分を素直でなくさせることが、僕にはたくさん思い当たります。なのにタケゾーは、大人のクセにいつでも素直に見えて、ごくあたりまえのことをさりげなくできるのです。どんなときでも自分をストレートに表現しています。タケゾーという男のなんとも言えないあの味わいは、商売上あみ出した技ではなく、彼の体のど真ん中から湧き出て来ているものだと思います。このことはおそらく、舞台の上の斎藤直樹を見ている皆さんは、とうに気がついていることでしょう。

 僕はステージ上のタケゾーを見るといつも、演劇に対してまっすぐな気持ちを感じます。そして彼の立ち姿に、思わずありがとうと感謝してしまうことがあります。あの心地よさは、斎藤直樹という男のごくごく普通で、そしてじつに貴重な、生来の持ち味にほかならないと思います。僕は一ファンとして、斎藤直樹の舞台が数多く見られることを心から願っています。


青空美人 木内宏昌


□さいとうからひとこと
いきなり、大学時代のあだ名を暴露されてしまいました。しかもこんなにストレートに褒めちぎられると、こっぱずかしい限りです。もともと上智在学中、僕が所属していたダンスサークルと木内さんが参加していた劇団が仲がよかったのですが、まさか卒業してからこういう付き合いになるとは思いもしませんでした。青空美人の公演に出演が決まっていたのに僕の仕事の都合でキャンセルをしたこともあります。そんな僕でもいまだに声をかけてくれるので本当にありがたいです。これからもよろしくお願いします、木内さん。


posted by Naoki Saitoh at 00:28| Comment(0) | TrackBack(0) | コラムII
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